ナポレオンがヘヴィロテしたオーデコロン・ケルンの水

ナポレオンがヘヴィロテしたオーデコロン・ケルンの水

ナポレオンは戦争に出かける前と、戦争から帰ってジョセフィーヌ夫人の元へ帰るときに、元祖オーデコロン・ケルンの水をヘヴィロテして使っていた」というのは事実のようで、その病みつきの理由は秘密のレシピにあります。

 

ここではオーデコロンの元祖と言われているケルンの水について、歴代の愛用者・どんな香りなのか?・ポーチュガル4711との違い・再現香についてお伝えしています。

 

ファリーナのオーデコロン

 

 

ファリーナのオーデコロン・ケルン水の歴代愛用者

オーデコロン愛用者ナポレオン

 

元祖オーデコロンの愛用者には名だたる著名人がずらり並んでいます。

 

  • ルイ15世
  • ナポレオンボナパルト
  • カロライナボナパルト
  • モーツァルト
  • ヴォルテール
  • マダムデュバリー
  • オーストリア皇后マリアテレジア
  • マリーアントワネットの母
  • カサノバ
  • ルートヴィヒ2世
  • ビクトリア女王
  • ダイアナ妃
  • マリーネデートリッヒ

 

この錚々たるメンバーを引き付ける香り、「もうどんだけなの…」です。

 

 

 

この歴代の愛用者の中でも最も有名なのがナポレオンボナパルトでしょう。

 

オーデコロン愛用者ナポレオン2

 

ナポレオンは大の香り好きで清潔だったので、ファリーナのオーデコロンを一日1〜2本使っていたとか。

 

当時のオーデコロン1本の価格を現在の価格に還元すると1,400ドル(約15万円)だったとされ、これは当時のお役人の1年分の給料だったと言います。

 

このとおり香りそのものが裕福層だけが使える高級品でしたし、絶大な人気を誇るファリーナのオーデコロンは増してきわめて高いプレミア感があったはずです。

 

 

 

 

 

本家オーデコロンはどんな香り?

ファリーナのオーデコロン

*

 

本家オーデコロンはきわめてさわやか、フレッシュなベルガモットといくつかの柑橘、ジャスミンなどがブレンドされた、時代を卓越した香りです。

 

香りの濃度が高い香水よりもかなり低く、「まるでシャワーを浴びるように体に香りを纏う」というような身に付け方が一番適しています。

 

 

この香りを世に生み出したジョバンニマリアファリーナは、彼の兄にあてた手紙の中で故郷のイタリアを懐かしみながらこう言いました。

 

 

私が創り出した香りは、まるでイタリアの春の雨上がりの朝の光景です。

ベルガモットや花、イタリアのの香草を思い出させ、私の感覚や想像力を掻き立てます。
‐出典:ヨハンマリアファリーナが兄にあてた手紙より‐

 

 

 

想像するに、この香りのメインとなっているベルガモットが生息するイタリアの春は、雨が降りがちながら晴れ間がやってきた朝にはうつうつとしたものを一掃・洗い流すような清々しさが広がっているのでしょう。

 

雨露が立ち上るとともに、ベルガモット農地からほのかな香りが感じられるような、さわやかさを思い起こさせます。

 

 

 

4711コロンと、本家オーデコロンとの違い

471

 

ポーチュガル4711として知られるオーデコロンと、本家オーデコロンについて、レシピは似通っていますが厳密に言えば別の香りです。

 

「1709年本家のオーデコロンがジョヴァンニマリアファリーナによって作成されたのち、ケルン商人だったミューレンズが本家オーデコロンのレシピを参考にして似通った香りを生み出した」というのが正確な流れです。

 

両者の違いは「後続でより世界中に知られているのが4711」、「伝統を重んじより格式高さが際立つのが元祖オーデコロン」と言えましょう。

 

 

 

元祖オーデコロンはヨハンマリアファリーナの子孫によって伝統的な製法を守って生み出されています。

 

ファリーナの工房

ファリーナの香りの工房は、世界大戦で崩壊したのち再建されている

*

 

一方ポーチュガル4711は200年の歴史がありながらオリジナルではありません。

 

4711ポーチュガルのサイトでは、ミューレンスが婚礼の際に牧師からオーデコロンのレシピを譲り受け、当時のケルングロッケンガッセ地区の4711(現代で言う番地的な位置づけ)に工房をオープンさせたという経緯が説明されている

 

4711ビル

現代の4711ビル

 

グロッケンガッセ地区4711

当時のミューレンスの工房・ケルングロッケンガッセ地区4711番地

 

 

婚礼の際に羊皮のレシピを渡されるミューレンス

婚礼の際に牧師から羊皮のレシピを渡されるミューレンス

 

 

 

 

この流れは1874年に施行された商業保護法にあります。

 

それ以前、本家オーデコロンは模倣品に対して商標を主張することができなかったという事情があるようで、当時は同じ名前の香水がいくつも存在していたとか。

 

 

伝統を重んじるファリーナのオーデコロンの特徴
  • 模造品防止のワックスシール
  • ラベルには調香師が1本1本サインしている
  • ワインの樽同様、樽の中で2年ほど熟成している

 

 

 

本家オーデコロンのメインとなっているベルガモット

イタリアカラブリアのベルガモット

出典:tree of life

 

柑橘は今から2〜3万年前には生息していたと言われており、その後紀元前300年代にギリシャ‐中東文化の融合政策の影響※で伝播しています。※アレクサンドロス3世も大の香り好きだった

 

本家オーデコロンのレシピにおいてメインとなっているベルガモットは、レモンの樹木にライムを接ぎ木してでできた品種と考えられているようです。

 

 

イタリアカラブリア地方

出典:tree of life

 

大航海時代あたりからベルガモットが実験的に栽培されはじめその香りの良さから、やがてこれが商売ベースへ発展していきます。

 

 

 

 

 

日常で最も手軽にベルガモットの香りをお試しする方法としておすすめなのが、紅茶葉アールグレイです。

 

アールグレイは言ってみれば紅茶葉にベルガモットの香りをなじませたフレイバーティ。

 

ベルガモットそのものの香りをより実感するためには、アールグレイのお茶から立ち上る香りよりは、ティーバックに残った香りを嗅ぐという方法が一番お勧めです。

 

アールグレイ茶葉

こんな身近な茶葉でベルガモットの香りがお試しできる

 

 

上は珍しく緑茶葉にベルガモットを香り付けしている緑茶葉

 

私自身は、まるで茶葉そのものかのような、茶葉と見事に一体となったその香りに毎度毎度感嘆してしまうほどです。。

 

 

 

本家オーデコロンを生み出したヨハンマリアファリーナ

ヨハンマリアファリーナ

ヨハンマリアファリーナ

 

ここでは本家オーデコロンを生み出したヨハンマリアファリーナ(Johann Maria Farina 以下ファリーナ)について詳しくお伝えしたいと思います。

 

 

北イタリアに生まれ育ったファリーナは商売上の成功を目指しててケルン(現ドイツ)に移り住んだとか。

 

商人であり調香師として成功していた叔父の工房に入りのちに超高級香水店をオープンします。

 

 

高級香水店

 

 

もともとファリーナは幼少から香り好きであり、トレーニングの賜物でもともと原案としてあったレシピを洗練させて元祖オーデコロンを世に生み出したのです。

 

 

ケルン大聖堂

 

当時のケルンでは国外からの定住にかなり厳格なものでしたが、幸運にも市民権を与えられたファリーナはケルンにちなんだ「オーデコロン(ケルンの水)」と命名したとか。

 

 

 

本家オーデコロンが爆発的人気になった理由

ケルン大聖堂

ケルン大聖堂

 

ファリーナのオーデコロンは、18世紀のヨーロッパで爆発的な人気を集めました。

 

この理由としてケルンはおろか当時のヨーロッパは黒死病が流行する・裕福であっても入浴もままならないという状況にありました。

 

 

 

これを植物の力で悪臭を目立たなくさせたり、消臭したりするのがファリーナのオーデコロンで、言ってみれば問題解決策として使用されるようになったのです。

 

 

 

 

これに対してファリーナのオーデコロンは当時のドイツの人々が抱える悩みを心理面で一掃してしまうような明るくクリアな印象を持たせたのではないかと思います。

 

ほどなくしてファリーナのオーデコロンは、「社交界のマストアイテム」というような認識が浸透、やがてヨーロッパ以外でも絶大な人気となったのです。

 

 

 

 

 

これだけ言ったとしたら、「オーデコロンはさぞ相当な商業的に成功したのだろう」と邪推してしまいますが、しかしそうしたポジティブな出来事だけでは済まされませんでした。

 

フランス革命や世界大戦という危機を体験し、世界中の選りすぐった産地から原材料を取り寄せなければ成り立たない高品質な商品であるがゆえに原料の調達がままならない状況もあったと言うのです。

 

 

後述の通りイタリアのベルガモットにしても場所を選ぶ植物であり、ジャスミンも超高級香料ですので、無尽蔵に生産できるわけでもなかったのでしょう。

 

 

 

 

 

ケルンの水を調香師が再現・時代を超えた人気の秘密を推測

 

ファリーナのオーデコロンのレシピの全貌は公開されておらず、1709年に世に生み出されてから現在までその秘密のレシピを知っているのはたったの30人。

 

知れているレシピは、前述したファリーナが彼の兄にあてた手紙で触れられているベルガモットなどの柑橘や花の香りです。

 

 

 

私雨宮悠天は過去10年の間、このファリーナのオーデコロンを数えきれないほど再現してきました。

 

 

ほか数えきれないほどの香りを商業施設にご提供してきた立場上言えるのは、このレシピでは、どうやっても人気になるとしか言いようがない、という点。 それだけ時代を超えた卓越性があるブレンドなのです。

 

 

そう言える理由らしきものを調香師としての立場からお伝えしようと思います。

 

 

 

トップノートにいくつかの柑橘のアロマを掛け合わせる

 

柑橘のアロマは、どの柑橘同士をブレンドしてもほぼ間違いなく好印象ないい香りが出来上がります

 

柑橘の香りの持つ一瞬で気分を明るくさせ、太陽を思い起こさせるイメージを嫌う人はそう多くはないでしょう。

 

 

 

ミドルノートにジャスミン

 

ファリーナのオーデコロンは確かに老若男女・年代を問わず慕われる香りではあるのですが、ナポレオンに見られるようにどちらかと言うと男性の大ファンが多いです。

 

男性の間で人気を不動にしているのは、ジャスミンにあるのではないかと推測しています。

 

ジャスミンは言ってみればアドレナリン系でやる気を起こさせる香りです。ナポレオンも戦場に出かける前英気を養うためにこのオーデコロンを活用したのではないでしょうか。

 

 

 

ベースノートにウッディ系

 

 

ベースノートにはウッディ系のアロマがブレンドされていると考えられています。

 

ケルンの水と呼ばれるだけあり、印象としてはまるで水のような感じの香りではありますが、そのイメージとなっているみずみずしいトップノートの柑橘だけではすぐに香りが揮発してしまうので、重たいウッディ系の香りが必要なのです。

 

 

 

同じ香りとして一定を保つ

 

このファリーナのオーデコロンの使命は「いつも同じ香りがすること」だと言います。

 

ワインのように同じ畑で育ったとしても違う風味になるのと同じで、アロマも植物を原料としている限り含有成分が異なります。

 

 

人間の手の及ばない域があることを前提に、この伝統的なファリーナのオーデコロンにおいてはなお同じ香りを保つことを重視しなければならないのです。

 

レシピは秘蔵とされているようですが、この原材料の特性からして、ブレンドの比率はおそらくその年に取れた原材料によって微妙に変わるのではないだろうかと考えます。

 

変えなければその時その時の原材料の香りの特徴がそのまま反映されてしまい、同じ作風にするのは不可能に近いからです
※ある特徴的な香りが弱まった原材料であれば、それを補うべく何かの香りを補強する必要があります。

 

こうした厳格なルールを守りつつ、「いつ購入しても期待通りのいい香り」という印象をファンに与え続けているのではないでしょうか。

 

 

 

英雄たちが時代を超えて愛用した元祖オーデコロン

 

時代を超えて愛用されている元祖オーデコロンの魅力は、どんな人にも親しまれるブレンドとさわやかさにあるのでしょう。

 

かつての英雄たちがそうだったように、香りを味方につけて意気揚々としたポジティブマインドを保っていたいものです。

 

 

執筆:調香師 雨宮悠天

 

 

【出典】
*:farina.com
※:4711.com

 

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