なぜ今香りによるブランディングが競争優位性を発揮するのか
感覚体験は顧客ニーズに対する満足感を向上させるだけでなく、長期にわたって顧客の記憶に残り、他社を追随させない力があります。
ここでは、感覚体験として大きな力を発揮する嗅覚に着目、企業が競争優位性を勝ち取るための方法として香りを活用するのがなぜ有効なのかをお伝えします。
ハーレー・シンガポール空港・ダブ・ケロッグなどの企業に見る感覚体験を提供するブランディング
ハーレーダビッドソン・シンガポール空港・ダブ・ケロッグなどの企業は、「自社ブランドを顧客の中に存続させる方法」として独自の感覚体験を顧客に提供しています。
ハーレーダビッドソンだったら、あの独特なエンジン音。
シンガポール空港だったら、東南アジアを象徴するエキゾチックな香り。
出典:シンガポールボタニカルガーデン
ダブだったら、クリーミーでしっとりした泡に包まれながら美肌が向上する豊かな体験。
ケロッグだったら、噛んだ時のカリカリ感がいっそうおいしさを掻き立てます。
これらの企業は意図的にそうした感覚体験を作り出し、巧みにブランディングの手法として活用しています。
エンジン音・香り・肌を包み込む泡の感覚・噛んだ時の音は、顧客が達成しようとしている本来の目的とは直接関係はありません。
しかし感覚体験は顧客ニーズに対する満足感を向上させるだけでなく、長期にわたって顧客の記憶に残り、他社を追随させない力を発揮します。
感覚は記憶と感情にリンクしており、感覚による体験が多ければ多いほど強固に記憶に保存される性質があるのです。
それでは上の事例を踏まえて商空間で嗅覚による感覚体験を提供する有効活用について詳しくお伝えします。
シンガポール空港はなぜ並みの食事・機内であるにも関わらず満足度が高い?
出典:シンガポール空港
シンガポール空港はconde nast travelerなど多くが最優秀空港と評価しています。
実は私自身も2008年シンガポールへ旅をしたとき、(食事やサービスはほかの空港会社とあまり変わりがないものの)どこか彼らが提供するサービスが醸し出す雰囲気に思わず心満たされ、はじめて降り立ったシンガポールという国に洗練された印象を持ちました。
その理由の一つはシンガポール空港が採用していた香りにあります。
彼らは独特な服に身を包んだシンガポールガール(上の画像)を引き立たせるたオリエンタルなオリジナルの香り※を機内にスプレーし、その香りを添付したおしぼりを提供するのです。
※ステファンフロリディアンウオーターズによるシンガポール空港オリジナルの香りで、特許として登録された商票
シンガポール空港でなくても、ハワイ空港に降り立って濃厚なプルメリアの香りを嗅ぎ、ハワイにやってきたという経験を記憶にとどめている人は多いでしょう。
感覚によって感情が揺さぶられると体験そのものの質が上がり、企業が提供するサービスや商品に愛着が持てるというのは魔法ではなくごく自然な話なのです。
実際香りが商空間に漂っているとその場のムード・雰囲気を40%改善するという調査があり、これは心地よい香りにさらされることで幸せな記憶や幸福感がが呼び起されるからです。
※ミルオードブラウン社による。詳細は後述
そのごく身近な例として「車の香り」が挙げられます。
私たちは新車を購入したときに感じられる香りに満足感を感じられずにいられないものですが、実は新車の香りは合成で調合されてシートに添付されています。
半年も過ぎれば新車の香りは薄れていくでしょうが、新車の香りがなければ本当に新車なのかを疑う可能性すらあるほどです。
世界で最も高級と言われるロールスロイスは新車が匂いで不評だったためにブランド維持対策として数十万ドルを投資、独特の匂い※を生み出したと言いますし、車の匂いについて顧客満足を追求する多くの企業は多く存在します。
※革・羊毛・樹木など自然素材の匂いから成る“意図的に作った香り”。
しかし商品やサービスに香りを導入するというのは何も特別なことでもありませんし、どんな企業でも取り組むことができる身近な競争優位のためにできる対策です。
私たちは一日に2万回呼吸をして息を吸うごとに匂いを嗅いでいるので、香りをかぐのは無意識に行われる基本的な体験。
とりわけ日本人はどの国と比較しても感覚に敏感だということが分かっていて、感覚と感情体験を提供するブランディングを構築するのが有効と言われているのです。
体験をリアルにする商業施設での香り演出
合成の紫色に着色されたグレープ炭酸水に甘酸っぱいフレイバーを添加すれば、たわわに実ったブドウの皮がイメージされ、炭酸水を飲む行為が爽快で豊かになるように、体験がよりリアルになります。
フレイバーもない、甘さと炭酸だけが添加されたドリンクだったとしたら、いったい何の飲み物なのか分からず違和感だけが大きくなってしなって飲むのを途中でやめてしまうかもしれません。
このように香りはイメージ感覚を連想喚起することが得意であるとともに、気分を変えて行動に影響を与えます。
ピーターアーツやJステファンジェネリックも下のように「香りによって無意識に感情や行動が変化し、商品やサービスに影響を与えている事例」を報告しています。
ポップコーンの売り上げがいまいちだったら人工的なポップコーンの匂いを拡散するだけで売り上げの改善になった
クリスマスシーズンにホットワインの人工的な香りを流したら露店に列ができ始めた
お店の前で木綿の匂いを噴霧して来店数が伸びた
これらは商品やサービスを象徴するかのような(または商品やサービスの一部のように思われている)香りを巧みに利用した演出の例であり、前述のように感覚体験をリアルにし、商売の目的を達成するための取り組みです。
どの香りも商品やサービスの機能に直接関係のない、と言えばその通りなのですが、そうだとしても感覚体験を提供していることは疑いの余地がありません。
実際、好ましい商空間だと判断するポイントは視覚37%、次いで嗅覚23%だとという調査※があります。
※ミルウオードブラウン社
事実競争優位性を勝ち取るために感覚体験を顧客に提供すると、次でお伝えするように顧客の中で多くの感覚記憶が活性化され、消費者とブランドとの結びつきが強固になります。
つまり嗅覚は視覚の次に効果的な感覚体験を与えて顧客との結びつきを強固にし、視覚や聴覚のみで訴える競争優位性対策の限界を打破きる可能性が増えるのです。
競争優位性を与えてくれる感覚訴求の方法ががあるとするならば嗅覚体験を検討すべきというアウトラインが見えてきました。
感覚体験のドミノ効果
前述したシンガポール空港の競争優位性は、キャビンアテンダントの服装から髪のセットアップ・サービストーク、全ての販売促進活動において使われる色やキャッチコピーなど全てが一貫性を持ち、その一貫性がシンガポール空港というブランディングを形成・評価を不動のものにしています。
決して香りだけがシンガポール空港の競争優位性を支えているわけでもないようですが、香りが最重要視されているということは確か。
そして感情は感覚から集められた情報に基づいていますので、感覚体験をいくつも顧客に提供すると印象が脳により強固に残ることになります。
「一つの感覚がもうひとつの感覚を喚起し、さらにもう一つが喚起される」という感覚体験のドミノ効果は印象が脳に記憶されるときの特徴と言えます。
嗅覚ブランディングの肝
インターネットによって一番自分にフィットする商品やサービスを探す選択肢が爆発的に増え、価値観が多様化を極めました。
一社だけが高い支持率を得ることはありえない時代です。
1950年代のユニークさを売りにする戦略、60年代の感情に訴える戦略、そして90年代のブランドへの愛着心を掻き立てる戦略を通り過ぎ、現在は選ばれるブランドとして感覚体験を提供するHSP(Holystic sales proposition)時代になりました。※
※Martin rindstrorm
感覚体験を顧客に提供するHSPの戦略は、顧客に選ばれるための対策として「顧客との間に感情的なつながりを構築する取り組み」を中心に行われます。
「感覚体験が感情を創造・顧客が求めているニーズを超える満足を提供するという特性を活用するならば、視覚の次に有効と言われる嗅覚を活用するのが有効」とするのがHSPの肝となっています。
HSPによるブランディングの最強の例としてスタバがあります。
もしスタバがただのコーヒーを提供するに徹していたならば、現在のように世界各国に出店するような企業になっていないでしょう。
スタバの感覚体験の一例は以下の通り。
- 家から離れた家・サードプレイスにふさわしい落ち着いたお店の雰囲気(具体的には落ち着いた雰囲気の家具や照明)
- 高い品質のコーヒーとそれを生かす芳しい焙煎
- どこから見てもスタバだとわかる緑のマーク
スタバブランディングの成功要因にコーヒーの香りが重視されていることは言うまでもなく、ほかはコーヒーのサイズを顧客ごと気分によって選べるオーダー方法など挙げたらきりがありません。
そして「コーヒーとともに洗練された体験をして自分を表現すること」、これ抜きにスタバの成功は語れないと言われているほどです。
顧客はブランドを通して自己表現をしたがっており、「○○を使っている自分」に愛着を持ちます。
貴社でも顧客の中にブランドへの愛着心を増やす「企業のアイデンテティを表現する香り」で感覚体験を提供しませんか?。
>>企業を象徴するオリジナルの香りをオーダーメイドで調香し、感覚体験を提供する取り組み:アロマ空間デザイン
■参考書籍:
Martin Rindstrorm
- 五感刺激のブランド戦略
- Buy・ology
- Brand Washed
博報堂 「五感」の時代