「シャネルNO5を男性が付ける」、調香師が考えるその是非

「シャネルNO5を男性が付ける」、調香師が考えるその是非

シャネルNO5 ブラッドピッド

 

 

シャネルNO5を男性が付けるとどうなのか? 男性に相応しい香水と言えそうか?といったトピックをご紹介します。

 

またシャネルNO5と縁のあった男性たちのエピソードをご紹介しながら、その香りとシャネルという女性の魅力をお伝えしていますのでご参考ください。

 

 

 

シャネルNO5を男性が付ける

ブラッドピッドが登場しているシャネルNO5のショートフィルム

 

生誕から100年以上女性の香水の不動のクイーンであり続けるシャネルNO5は、あまりに有名なゆえに「男性が付けるのはどうか?」と考えられることがあるようです。

 

シャネルNO5のショートフィルムにはブラッドピットも登場していたので「もしかしたら男性が付けるのもいいのではないか?」といった風潮があったのかもしれません。

 

明らかに女性向けの商品に有名な男性俳優を登場させるマーケティングはいくらでもあり、ブラッドピッドの場合もそのパターンではないでしょうか。
※女性化粧品の国内CMにもうっとりしてしまうような美形男性タレントが登場、それで女性を集客している商品などはいとまがないほどです。

 

100年以上の歴史を持ち、今でも30秒に1本売れていると言われる香水ですので、男性にとってもこの香りが抗えないほど魅力的であることは確かではあります。

 

 

 

しかし後述するとおりジャミンやローズなどの花の香りが豪奢に処方されている香水ですので、男性がシャネルNO5を付けると以下のように誤解を招く場合もあるようです。

 

シャネルNO5を男性が付けると起こりそうな反応
  • 女性の香水が男性の服にでも付いたのか?
  • 女性とデートした直後に仕事しにきたのかと思われそう

 

花の香りや女性用の香水が心から好きならば、男性がシャネルNO5を付けても自由だと思いますが、仕事中に付けるのは控えめにしてもいいかもしれません。

 

 

シャネルNO5のレシピは、「男性がパブリックな場で身に着けると恥ずかしくなるような溢れんばかりの花の香り」である

 

シャネルNO5が男性用のフレグランスとは言い難い理由として、どんな香りが処方されているのか?どういった意図や背景で制作されたのか?といった点をお伝えしますのでご参考ください。

 

 

シャネルNO5のレシピ

PRtimes

 

シャネルNO5の広告では 「この香水を身に付けたら男性を射止められる・理想の男性に出会える」 などと語られたパターンもあったほど、女性の魅力を開花するといった背景で販売されてきました。

 

それは以下のようにジャスミンやローズ、イランイラン、ネロリといった花のアロマが豪奢に処方されたフローラル調の香水です。

 

 

シャネルNO5のレシピ

「80種以上」の香料が処方されていると言われるシャネルNO5の主な香料は以下の通り。

 

香りの分類:フローラルアルデヒド(フローラル調のサブカテゴリ)

 

  • Top note: Citrus,Neroli,AldehydeC10〜12,Coumarin
  • Middle note: Grasse Jasmin,Grasse rose,Ylan Ylan,Lily,Olis,
  • Last note: Patchouli,Sandal wood,Ceder wood,vanilin,Musk

ピンク:花の香り

 

 

 

ジャスミンやローズは「世界最高の品質を誇るフランスグラース産」だけが使われています。

 

30mlのシャネルNO5に1000個以上のグラース産ジャスミンの花が必要とされるので、かつて「世界一高価な香水」と呼ばれていました。

 

グラース産のジャスミンとローズはめまいを誘うほどに上質な香りで、シャネルNO5は発売以来この品質を維持するためにかなりの労力を割いてきたようです。

 

 

控えめに言っても、「男性が仕事などパブリックな場でシャネルNO5を付けていたら」、家に戻ってシャツスーツすべてを取り換えてしまいたくなるような気分にさせる香りなのではないかと思います。

 

香りそのもの品質・香りのすばらしさについては言うまでもなし、しかし「男性を虜にするための香り」といったマーケティングで販売されていた香りを、男性がパブリックな場で身に着けるとどうなるか?想像していただければ納得せざるを得ないものがあるのではないかと思います。

 

 

 

では男性はシャネルのどの香水を付けたらいい?

 

シャネルNO5があまりに女性的な香水ですので、「シャネルの香水で男性用フレグランス」のおすすめするならば以下の通りとなります。

 

ブールドシャネル

Blue de chanel

 

香りの分類:ウッディ調

 

シトラスやウッディ、そしてシャネルNO5と同じジャスミン・サンダルウッド・シダーウッドが処方されています。

 

悠然として落ち着いたそれでいて若々しい快活さを感じさせ、シャネルNO5同様男性の多様な魅力を引き出せる人気の香り。

 

 

 

 

シャネル エゴイストプラチナム

chanel egoist platinum

 

香りの分類:フゼアノート

 

快活・クール・チャレンジを恐れない現代男性のために制作された香水です。XJapanのYOSHIKIさんが愛用されているとか。

 

 

調香師である私が、パフューム売り場の売り子さんと話しているときに「なぜ明らかに女性用だと認知されているNO5が男性用として検討されるのか?」といった質問をしたところ、次のような答えが返ってきてなかなか斬新でした。

男性自身が男性用フレグランスの香りに酔ってしまうみたいで。女性用フレグランスのほうがその意味で今の男性たちにフィットしているパターンが多いのではないかと思います。

 

こうした傾向が意外に思え、どんなところにニーズが潜在しているかわからないと思わせられたものです。

 

 

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シャネルNO5はどんな香りなのか?・その香水を特徴づける合成香料アルデヒド

 

シャネルNO5は極めて妖艶でありながら、それと鏡合わせのように清々しいような清潔感が同居、この矛盾かのように思われる特徴が実は普遍的な美しさ表現しています。

 

ジャスミン・イランイラン・リリーといった濃厚な花のアロマに、女性の象徴のようなバラの香り、そして官能性の表現に欠かせないムスクが処方されています。

 

 

シャネルNO5は確かに大量のジャスミンの香りが使われますが、決してジャスミンの香りが単独で目立ちすぎることはなく、複数の香りがミックスされて香りの芸術性が追求されている香水です。

 

 

人気の香水という枠にとどまらず社会現象までに至ったシャネルNO5は、その伝説が語られる時には必ずといって良いほどアルデヒドについても語られてきました。
シャネルNO5のアルデヒドがここまで人を魅了し続けてきた要因と言っても過言でありません。

 

 

アルデヒドは天然香料から単利合成された香料で、石鹸やシャンプーなどに含まれており「清潔感」を感じさせる香りです。

 

花の香りとミックスさせると花の香りがより豊潤にやわかくふくよかさを醸し出す特徴があります。

 

 

シャネルNO5ではまるで冷えたシャンパンのようにどこか冷たく甘いような豊潤な雰囲気を与え花の香料をいっそう芳しくふくよかにしており、当時はまだこの合成香料の単利技術が未発達だったためシャネルNO5は大胆に活用した香水として話題を呼びました。

 

グラース産ローズ

fujingaho

 

実際シャネルNO5にはアルデヒドC10・C11・C12などが処方されており、それぞれは以下のような位置づけで処方されているように思います。

 

シャネルNO5のアルデヒド類の一例
  • アルデヒドC11:単体だとろうそくに似たようなやや脂っぽい匂いだが、花の香りとブレンドすると花の香が驚くほど豊潤にやわからかくなる
  • アルデヒドC12(L)、:シトラスのようなさわやかなイメージの匂い
  • アルデヒドC12MNA:動物香料アンバーに似た匂い

 

 

シャネルNO5においてのアルデヒドの処方率は1%で、テスターの段階ではシャネルNO5の調香師エルネストボーの助手がアルデヒドを10倍の濃度で入れ間違えたのではなないかとも言われています。

 

エルネストボーとシャネル

エルネストボーとシャネル シャネル社

 

助手の誤り説は正直なところ定かではないのですが、より重要なのはエルネストボーの真意はどこにあったのか?と言ったところにあります。

 

これについてエルネストボーの周りの発言が参考になりましょう。

 

 

シャネルNO5のアルデヒドについて
エルネストボーの知人調香師ギ―ロベールの質問・シャネルNO5のアルデヒドの処方率はどう決めたのか?

エルネストボー:微笑むだけ(知らんぷり)

 

フランスの化学学会での講演・シャネルNO5のアルデヒドの処方率はどう決めたのか?・着想はどこから得たか?

エルネストボー:徹底的にはぐらかす  1946年2月27日

 

エルネストボーの同僚調香師ヴェリンギの回想・エルネストボーはどんな人か?

エルネストボーは社外の人間に決して自分自身の仕事について語らない人だった(だからシャネルNO5の核となるアルデヒドについて他人に語るわけがない)。恐るべき忍耐力と集中力で、驚異的なトライアンドエラーを繰り返し、うまくいったからと言って決して慢心せずに常に完璧を目指していた。

 

ヴェリンギが語るように、調香は気が遠くなるようなテストの数からようやく「一つか二つ程度の絶対領域」にたどり着くような作業です。

 

よって他人にこの過程を説明しても無意味で、理解を得られるものでもないゆえに、上のような優雅な語り口をしているのではないかと思われます。

 

シャネル自身、「妖艶でありながら清潔感を感じられる女性の多様な魅力を表現したい」と願ってシャネルNO5の制作に取り掛かりました。
相反するような矛盾的な性質を成立させるためにアルデヒドが不可欠と考えられ、100年以上も語り継がれる伝説の香りシャネルNO5の特徴的作風となったのです。

 

 

シャネルNO5

シャネルNO5

 

 

以下よりお伝えするようにシャネルNO5はシャネル自身の分身のような香水です。
それはファッションデザイナーとしてレジェンドでありながら、悪びれも臆することもなく男性関係をビジネスの展開に巻き込んでいくアヴァンココシャネルという女性そのものの魅力が反映されている香りなのです。

 

 

 

 

調香師が考える「結局シャネルNO5を男性が付ける」、その是非

 

「シャネルNO5を男性が付けるのはどうなのか」といった好奇心については、次のようにお伝えしています。

 

 

仕事などパブリックな場では誤解を招くこともあり積極的におすすめする感じではない。

 

しかし、ブラッドピットも言ったように「男性だとしてもその香りの魅力に抗えない」といったあふれんばかりの香りの魅力があるのは確かです。

 

寝室などプライヴェートな空間で、シャネルNO5を手元に置いて楽しまれるのは、私とても大賛成なのです。

 

世界一、そして30秒に1本売れている香りだけあり、それだけの価値は十分感じられるはず、ということは断言します。

 

 

 

「シャネルNO5=ガブリエルシャネルという女性」と男性

 

ここからは、シャネルNO5やガブリエルココシャネルという女性にかかわった男性たちがどのような人か、どういった影響を与えたのかを詳しくご紹介します

 

 

「別格の保護」を与える男性バルザン

パリ

 

ココシャネルは修道院(孤児院)を出たのち踊り子・お針子をしながら生計を立て、自分の居場所は「修道院ではなく都市(パリ)」だと考えていました。

 

のちに踊り子をしていた時に「別格の保護(=愛人)」を与えるというバルザンという名の男性が現れます。

 

 

シャネルは踊り子とお針子の仕事をしながら得られる生活と、男性によってすべてが保障される生活とを比べ、思うがままもたれかかる生活を選びました。

 

 

バルザンの邸宅で6年という歳月が過ぎ、シャネルはこの日々の退屈に耐えられなくなったとき、「帽子を制作する腕を生かした仕事をしたい」と申し出、彼が所有していたアパルトマンの1階に店をオープンしてもらうのです。

 

シャネルパリ

 

バルザンはシャネルの商売がほんの暇つぶしにしかすぎないだろうと考えていたものの、全ての出資をするつもりでいました。

 

 

シャネルNO5の思いが詰まった男性ボーイカペル

ボーイカペルとシャネル

シャネルとボーイカペル luxuryactivist.com/beauty

 

のちにボーイカペルという男性が現れてシャネルと恋仲になります。

 

バルザンは生活の全てと商売上の出資のすべてをボーイカペルが引き継ぎすることで愛人の座を譲り渡すと申し出ました。

 

ボーイカペルとシャネル

シャネルNO5

風刺画家セムによるシャネルとボーイ バッグにはCOCOと書かれている

 

しかしボーイカペルとの結婚まで考えていたシャネルに対しボーイカペルはそれはないと宣言、精神的におかしくなりそうになったシャネルは荒み切っていました。

 

しかも不運なことに、ボーイカペルはシャネルとの逢瀬に向かう途上自動車を運転途中事故により帰らぬ人となってしまったのです。

 

 

打ちのめされてしまったシャネルはしばらくの間イタリアで休暇を取り、心に空いた隙間を埋めるように香水の構想に没頭していくのです。

 

次にシャネルが新しい恋人として選んだのが、最後のロシア皇帝の従兄弟であるディミトリパブロビッチで、この出会いがシャネルNO5の調香師エルネストボーに繋がっていったと考えられています

 

 

軍人とシャネルNO5

シャネルの店舗前に並ぶアメリカ軍 シャネル社

 

シャネルNO5が誕生した当初は第二次世界大戦中で、アメリカ軍が妻や恋人へのお土産としてフランス製の香水を熱狂的に欲しがっていました。

 

アメリカ軍の男性たちは香水を売るパリカンボン通りホテルリッツのはす向かいにあるシャネルのブティックの前に行列をなしていたほどです。

 

 

フランス産のシャネルNO5はアメリカ兵にとって「言葉の垣根を超えた名前」だったとか。フランス語が話せないアメリカ兵であっても、香水を買いたければ指を5本立ればいいと知っていたからです。

 

 

戦争という混乱の中であってもシャネルNO5は国境を超える力をもっていました。

 

 

 

 

男性であっても抗えない香りの魅力があるChanelNO5の本質はここシャネルにあり

 

世界一、そして30秒に1本売れている香りのモンスターと言われるだけあり、女性用の香水であるシャネルNO5は男性にも抗えない香りの魅力があります。

 

その香りの魅力の本性というか本質は何なのか?と問われたならば、私は「ココシャネルという女性にある」と答えます。

 

 

妖艶でありながら、それと同時に清潔感が同居して見事な調和が保たれている香り、それはココシャネルという女性の生涯をそのまま香りで表現したような香りなのです。

 

 

 

 

パリで踊り子をしていた時に経験した中絶から子供を授かることができなくなったシャネルは、「一生結婚しない」と意地を張りながらもその周りには良いのか悪いのか公私ともに常に男性の影が絶えませんでした。

 

 

ファッション界・そして香水の巨匠でもあるシャネルがどんな形であれ、最終的に男性との幸せを得たことに喜びを感じざるを得ません。

 

 

参考文献
  • シャネルNO5の秘密 テイラーマッツェオ
  • シャネルNO5の謎 大野容子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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